雑誌編集者、スチールフレームを自作する—理想の1台を手に入れるための「自作」という新たな選択肢


年に1回、東京の科学技術館にいわゆる「フレームビルダー」が集い、製品を展示する「ハンドメイドバイシクルフェア」。2015年の同イベントを訪れ会場内を歩いていたところ、いっしょに仕事をしたことのある自転車雑誌の編集者が、あるブースに立っていました。まるで、出展者のような顔をして。

2015年のハンドメイドバイシクルフェアに出展されていた、EMERALD BIKESの「TRI-ROAD」
2015年のハンドメイドバイシクルフェアに出展されていた、EMERALD BIKESの「TRI-ROAD」

いや、彼はまさしく出展者でした。エイ出版社・バイシクルクラブ編集部の友廣睦さんは、多忙な業務の合間をぬって自転車フレームの製作を手がけ、ハンドメイドバイシクルフェアに出展していたのです。ブランド名は、EMERALD BIKES。2016年の同イベントで2年連続の出展をした友廣さんに、フレーム製作を手がけるようになったきっかけなどを伺ってみました。

<TEXT_Gen SUGAI PHOTO_Naoki Ohoshi>

●図工大好き青年、自作フレームに衝撃を受ける

友廣さんが自分でフレームを作ろうと思うきっかけになったのは、自転車雑誌に掲載されていた、ひとつの記事でした。

「ビルダーではない一般の方が、フレームを自作したという記事を読んで、衝撃を受けたのがきっかけです。自分でフレームを作ることができるのか!と。実は子供の頃から図画工作が好きで、以前はホームセンターで働いていました。また、鉄という素材も好き。もしかしたら、自分でも作ることができるのではないかと」

自作フレームを紹介する雑誌記事に衝撃を受けた人は、たくさんいるでしょう。しかし、それを自分でもやってみようと考え実行に移すのは、図画工作好きならではといったところ。

「鉄を素材として、銀ロウとガストーチでフレームを作ることができないかと考えました(注:銀ロウは作業温度が低い)。そしてフレームを製作する上で欠かせない治具も、自分で作ってやってみようと。自転車のフレームを自作するというとハードルが高いという印象がありますが、それは違うという思いもありました」

トーチを握る友廣さん
トーチを握る友廣さん

ハードルが高いという印象に対する友廣さんの「それは違う」という思いは、決して「フレームなんて簡単でしょ?」という意味ではなく、チャレンジすればできるはずだというもの。製作したフレームをハンドメイドバイシクルフェアに出展したのも、同じ考えからです。

「ホビービルダーに端を発した若手のビルダーも少しずつ増えてきていますし、ハンドメイドバイシクルフェアも門戸が開かれています。そこに自分のような者が参加することによって、自作フレーム、ホビービルダーといったものをより広く発信していきたいですね」

フレームを作る上で欠かせない治具も自作した
フレームを作る上で欠かせない治具も自作した

●フレームを自作することによって自転車への理解が深まる

フレームを自作すると言っても、何の手がかりもなしに始めたわけではありません。

「さまざまな本を取り寄せて読むところから始まり、実際にビルダーさんに教えを請請いながらチャレンジしていきました。実際にビルダーさんの仕事を見たり、自分でやってみたりすることで、その大変さ、ビルダーのすごさも理解することができました」

極薄チューブを用いた「HILL CLIMB」
極薄チューブを用いた「HILL CLIMB」

自転車雑誌の編集者という立場が、有利であったことは確かでしょう。実際、雑誌「バイシクルクラブ」やその関連ムックの中で、自作フレームに関する記事を読んだことがある人もいるのではないでしょうか。友廣さんは、フレームを自作するというチャレンジが、自転車雑誌の編集という仕事にも活きていると言います。

「フレームを自作していて楽しいと感じるのは、やはり自転車への理解が深まるということですね。すべての経験が今後につながっていくように思います」と、友廣さん。

フレームを自作するということは、単にスチールのパイプをつないでいくというだけではなく、自転車の造形や構造についての理解も深める行為でもあるのです。

友廣さんは「自分で作るのならばラグのあるフレームが好き」だという
友廣さんは「自分で作るのならばラグのあるフレームが好き」だという

自転車を趣味とする人ならば一度くらいは、自分で考えた理想のフレームが欲しいと思ったことがあるのではないでしょうか。そのような想いは、以前であれば「ビルダーに製作を依頼する」という方法でしかカタチにすることができませんでした。

しかし今は「自分で作る」という選択肢が、確実に育ってきているのです。それを友廣さんは、雑誌記事やハンドメイドバイシクルフェアのような場を通じて、発信し続けています。

HILL CLIMBはシートステーの巻きが印象的。様式美を追求しつつ個性を出すことに腐心した
HILL CLIMBはシートステーの巻きが印象的。様式美を追求しつつ個性を出すことに腐心した

友廣さんがフレームを自作する過程は、2014年3月に発行された、エイムック『ハンドメイドバイシクルBOOK』にもまとめられているので、興味のある方はそちらもぜひどうぞ。

また、EMERALD BIKESの公式Webサイトも立ち上がっています。バイクの詳細や問い合わせ等は、下記リンクから。

http://emeraldbikes.wix.com/works


ハンドメイドバイシクルBOOK (エイムック 2804)

(Gen SUGAI)