名車の系譜を受け継いだスタイルと性能、そして真面目なつくり……ブリヂストンサイクル「CHeRO(クエロ)」商品開発担当者インタビュー

先日、ディティール紹介ミニインプレを掲載した、ブリヂストンサイクルのニューモデル「CHeRO(クエロ)」は、そのトラディショナルなスタイルが話題となっています。今までのブリヂストンサイクルのスポーツ車ランナップは、フラッグシップである「ANCHOR」にしろ、クロスバイクの「ordina」にしろ、いかにもスポーツ車っぽいデザインが多い中で、異彩を放っているのも事実。どうして今、このタイミングでトラディショナルスタイルなのか。同社でクエロの商品企画を担当された、出井光一さんにお話を伺いました。

クエロ 20インチモデル
クエロ 20インチモデル

●リアルレーシングとは違うもうひとつの柱として

出井さんによれば、クエロの企画・開発がはじまったのは2011年の秋口とのこと。

「ブリヂストンサイクルにはクラシカルなシティサクルの“マークローザ”や、クロスバイクの“オルディナ”といったシリーズがあります。そういった自転車に乗られていて、より自転車の楽しみにはまって成長していく方も数多くいらっしゃいます。はまる、成長するといってもいくつか方向があるわけですが、そのひとつがロードレーサー等のレーシングバイクです。当社には、レーシングブランドとして“アンカー”があります。走り自体を楽しみたい、レースに出てみたいといったニーズには、アンカーをご提案してきました。しかし、自転車に乗る人が進む方向は、ひとつではありませんよね。走り方にもいろいろありますし、また、ただ走るだけではない楽しみ方などもあります。」

しかし、従来のブリヂストンサイクルの商品展開では、レーシングバイク、リアルスポーツバイクの“アンカー”以外に、ユーザーの成長を受け止めるものがほとんどなかったのも事実です。

「そこでブリヂストンサイクルとして、レーシングイメージとは異なるもうひとつの方向性を作ろうとしているのが現状です。その流れの中で具体化した自転車のひとつが、このたび発売されたクエロです。」

クエロ 700Cモデル
クエロ 700Cモデル

しかし、レーシングイメージではない、もうひとつの何か……といっても簡単ではありません。その目指す全体像についてはまだ教えてもらえませんでしたが、クエロを企画する上で意識したユーザーの趣向については、次のように話してくれました。

「ユーザーの声を拾っていきますと、クラシカルな、トラディショナルなスタイルの自転車へと興味が向いていく方が多くいらっしゃいます。従来のラインナップでは、そのようなニーズを満たすことができていませんでした。今までブリヂストンサイクルが手がけてきた自転車を振り返りますと、“ロードマン”や“ダイヤモンド”、“グランヴェロ”など、名車と言われるものが数多くありますが、その資産を現代に生かしきれていない。そこで、そのような名車の系譜を受け継ぎながら、比較的お手軽に楽しむことができ、なおかつ玄人も納得できる……そんな自転車を目指して、クエロが企画・開発されました。」

現代のスポーツバイクではアルミにしろカーボンにしろ、フレームに用いられるチューブは太めのものが主流ですし、カラーリングも派手です。それどころか、カラーが単色でまとめられていてもなお、フレームの太いだけで「スポーティーすぎる」という印象を抱く人が少なからずいます。そのような人々がイメージする自転車のスタイルは、細い鉄フレームの“ちょっと昔の、ふつうの自転車”なんですよね。しかし、このクエロが「おじさん狙い」かというと、そういうわけでもないようです。

「もちろん年齢層が高めの方々からの反響は大きいのですが、それ以上に、20〜30代の、トラディショナルなファッションが好きな若い世代の方々にも乗ってほしいと考えました。トラディショナルなスタイルでまたがったときに違和感の無い落ち着いたスタイル、そしてショーウインドウに映った自分の走る姿が好きになるような、そんな自転車を目指しました。」

ブリヂストンサイクルのWebサイトの中に『グッドデザイン賞受賞の歴史「GOOD DESIGN HISTORY」』というコーナーがあります。ここには1966年以降の、同社のグッドデザイン賞受賞商品が写真で紹介されているのですが、これを見ると確かに、クエロのデザインは、過去の系譜を今日に伝えようとしているのだなぁと感じます。

グッドデザイン賞受賞の歴史「GOOD DESIGN HISTORY」
http://www.bscycle.co.jp/design/index.html

もちろん、現状でも「マークローザ」があるのですが、あちらは使われているパーツがあくまでもシティサイクルのもの。クエロは、例えばマークローザに乗っているうちにより自転車にはまった人が、次の1台として選んで満足できるような、スポーツ車としての性能を持たせています。

クラシカルテイストの「マークローザ」だが、こちらはシティサイクルの範疇
クラシカルテイストの「マークローザ」だが、こちらはシティサイクルの範疇

●厳しい社内テストを通過した信頼のフレーム&パーツ

先日クエロのインプレッション記事において私は『このスタイル、この走り、そして「ブリヂストンサイクル」であるという安心感を考えたら、お得です』と書きました。ブリヂストンサイクルは社内で耐久性等の厳しい試験を行っており、それを通過したものでないと世に出ないのです。その分、開発には苦労が絶えないようでもありますが。

例えば、ブレーキ。クエロではカンチブレーキが採用されているのですが、カンチ=効かないという先入観を持って接すると「なんだ、効くぞ」と思ってしまいます。ブレーキ自体はブレーキメーカーが作るわけですが、ブリヂストンサイクル自身が何度も制動力のテストを行っています。

カンチブレーキを採用する
カンチブレーキを採用する

「カンチブレーキを採用した理由は、標準で太めのタイヤを採用しているからなのですが、制動試験は繰り返し行い、テストをクリアしたブレーキを採用しています。また、フレームの台座の設計も、ちゃんと制動力が発揮できるように考慮されているんです。」

このように、自社の性能基準を満たすために徹底したテストと熟慮した設計を行うのが、ブリヂストンサイクルの良心&底力。出井さんは「サドルの鋲は、そのままの仕様ではすぐにサビが出てしまうので、専用品になっているんです」であるとか、「このレザーテイストのエンブレムも、簡単には浮いてこないようにテストを繰り返したんです」などと、いくつもポイントを挙げてくれました。

サドルは鋲の耐久性まで試験
サドルは鋲の耐久性まで試験

例えばオプションのバスケットは底が浅く、ちょっと流行を意識しているように見受けられますが、その深さはヘッドチューブが短めになる700Cでも、ハンドルやブレーキレバーと干渉しないように検討を重ねたものですし、バスケットのステーや、同じくオプションのフェンダーを装着しても、各パーツの取り回しに難が出ないように設計するなど、本体のみならずオプションも細かい配慮の積み重ねなのです。

そして、肝心のフレーム。

「メインのターゲットは街乗りですが、乗り手が成長しても満足できるだけのしっかりとした性能を持たせています。フロントフォークこそコストとの兼ね合いでハイテンション・スチールですが、フレーム自体はすべてのチューブがクロモリなんです。他社製品では、クロモリフレームをうたいながら実際はクロモリのチューブとハイテンのチューブを組み合わせているものもあるようですが、クエロは本物のクロモリフレームです。」

ハイテンションスチールが悪いというわけではないですし、クロモリ最高!というつもりもありませんが(それ以外の鉄フレームもある)、確かに“クロモリフレーム”をうたいながら、トップチューブとダウンチューブ以外はハイテンという自転車はあります。それをちゃんとスペック表で明らかにしている正直なメーカー/ブランドもある一方、「で、どのチューブがクロモリなんです?」と聞くと、ごまかして答えないようなところも、確かにあります。素材が何であれ、ユーザーに対して正直な製品がいいですよね。

バスケットのステーはブレーキワイヤーを逃げるように設計された専用品
バスケットのステーはブレーキワイヤーを逃げるように設計された専用品

●今後の商品展開にも期待!

ここで紹介した以外にも、数多くのこだわりポイントや配慮、新規開発のパーツなどがたくさんの「クエロ」。その企画・開発を振り返り、出井さんは次のように話します。

「有りモノを組み合わせて簡単に作ったわけではないので、時間はかかりました。しかし5万円の自転車って、すでに自転車にはまっている方にとっては安価なものかもしれませんが、初めてスポーツサイクルを買う方にとっては、大きな金額でしょう。ですから、走行性能はもちろん安全性能、耐久性、環境負荷……そういったこともしっかり考えて作っています。何年も乗っていただいて“ああ、いい物を買ったな”と、思っていただけたらうれしいです。」

このクエロ、年間の販売目標台数は700Cと20インチの合計で5,000台となっているのですが、すでにかなりのオーダーがショップから入っているとのことで、初動はかなり良いようです。個人的には、今回登場した700Cと20インチの2モデルの「先」の商品展開、そしてリアルレーシングの“アンカー”と異なるもうひとつの柱がどのように具体化し、成長していくのか期待したいと思います。

お話を伺ったブリヂストンサイクルの出井光一さん
お話を伺ったブリヂストンサイクルの出井光一さん

ブリヂストンサイクル
http://www.bscycle.co.jp

CHeRO 製品情報
http://www.bscycle.co.jp/greenlabel/chero/

クエロPR

(Gen SUGAI)







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須貝 弦

1975年東京都新宿区生まれ、川崎市麻生区在住。印刷製版会社営業アシスタント、DTP雑誌編集者、コールセンター勤務等を経て、フリーランスのライター&編集者へ。雑誌原稿の編集・取材・執筆の他、企業内Webサイト、企業ブログ、メールマガジン等の制作にも携わる。2009年より、自転車ブログメディア「CyclingEX」を運営。須貝 弦(Gen SUGAI)のGoogle+はこちらです